最後の最後まで問題であり続けたのは、人間でした。
「裸」の人間でした。
この数年間に(強制収容所での)、すべてのものから人間から抜け落ちました。
金も、権力も、名声もです。
もはや何ものも確かでなくなりました。
人生も、健康も、幸福もです。
すべてが疑わしいものになりました。
虚栄も、野心も、縁故もです。
すべてが、裸の実存に還元されました。
苦痛に焼き尽くされて、本質的でないものはすべて解け去りました。
人間はとけだされて一つになり、その正体をあらわしました。
その正体は本来の人間ではありませんでした。
つまりじっさい、どこの誰でもない人間でした。
匿名の人間、名もない「もの」、たとえば囚人番号でした。