Thursday, April 23, 2020

裸の実存

あなたは、生ける神の御子キリストです。
マタイ 16:16
すべては、その人がどういう人間であるかにかかっていることを、私たちは学んだのです。
最後の最後まで大切だったのは、その人がどんな人間であるか「だけ」だったのです。
バイエルン地方のあるところに強制収容所がありました。
そこでは、ナチスの親衛隊員が、ひそかに、自分のポケットから定期的にお金を費やして、近くにあるバイエルンの市場町の薬局で「自分の」囚人たちのために薬を調達していたのです。
他方、同じ収容所で、自分自身囚人である人間が、囚人仲間をぞっとするような仕方で虐待していたのです。
つまり、まさしく、人間にかかっていたのです。
最後の最後まで問題でありつづけたのは、人間でした。
もはや何ものも確かでなくなりました。
人生も、健康も、幸福もです。
虚栄も、野心も、縁故もです。
すべてが、裸の実存に還元されました。
苦痛に焼き尽くされて、本質的でないものはすべて溶け去りました。
人間は溶け出されて一つになり、その正体をあらわにしました。
この「実存」とはまさしく決断に他なりません。
V.E. フランクルの『それでも人生にイエスと言う』より
『夜と霧』のフランクルの、それよりも先にまとめた講演の記録です。
解放の翌年、終戦直後の精神的混乱の最中に、一般市民に向かって、ウィーンの市民大学で語ったことば。
3年前、病気のお兄ちゃんのことを思いながら、日本で買い、日本でよみました。
そして、今、自分のために、また、人生を変えられそうな不安の中に立っている人々のために、もういちど、この本を開きました。
写真:笹田絵里